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フィリピンの法人税ゼロは、もう大手日本企業の得になっていない

フィリピンの経済特区に入ると数年間は法人税がゼロになります。ところが日本は2024年4月から、税負担の軽い海外子会社の分を親会社に課税し始めました。フィリピンには自国で先に取る制度がないため、免除された分は日本に納めることになります。下院の調査によれば、売上上位1%の法人の実効税率の中央値は5〜6%しかありません。

フィリピンの法人税ゼロは、もう大手日本企業の得になっていない

フィリピンの経済特区に入ると、数年間は法人税がゼロになります。外国企業を呼ぶための仕組みです。

ところが大きな会社では、その税金は結局どこかで払うことになります。日本が2024年4月から、税負担の軽い海外子会社の分を親会社に課税し始めたからです。

フィリピンで払わずに済んだ分を、日本で払っています。

免除されても、企業の手元には残りません

対象になるのは、どのくらいの規模の会社か

「大きな会社」とはどのくらいか

対象は、グループ全体の年間売上が約450億ペソ(約1,170億円)以上の企業です。下院の報告書による換算で、OECDの規定上は7億5,000万ユーロと定められています。直前4年のうち2年以上でこの水準を超えていれば対象です。

日本の上場企業でいえば、連結売上がおよそ1,200億円を超える規模から上が入ります。中小企業や、フィリピン国内だけで営む会社は対象外です。

当媒体が扱ってきた企業でいうと、バタンガスで産業用ロボットを作るエプソン即席麺の合弁を持つ日清食品RCBCのリース子会社に出資した三井住友ファイナンス&リース太陽光の合弁に入った大成建設などは、グループの規模で言えばこの水準を超えています

ただしこれは規模の話です。実際に上乗せが生じるかは各社のフィリピンでの実効税率次第で、ここに挙げた企業がそうだと述べているわけではありません。

免除された税金は、どこへ行くのか

世界の主要国は、大きな多国籍企業について 国ごとに、その国で稼いだ利益の15% は法人税を払わせる、という枠組みに合意しました。

売上ではなく利益に対してです。また全世界の合計ではなく、国ごとに判定します。フィリピンで15%を下回っていれば、他の国でいくら払っていても関係なく、フィリピン分について差額が出ます。

数字にするとこうなります

フィリピンの子会社が 利益100 を出したとします。

  • 経済特区の免除で、フィリピンに納めた税金が 5(実質5%)
  • 15%なら 15 のはずなので、差の10 が足りない
  • この 10 を、どこかの国が受け取る

企業が払う合計は、どちらにしても15になります。変わるのは、10を受け取るのがどの国かだけです。

その10を誰が取るかの順番も決まっています。

  1. 稼いだ国が先に取る(フィリピンで稼いだなら、まずフィリピン)
  2. その国に制度がなければ、親会社のある国が代わりに取る

日本は2024年4月1日以後に始まる事業年度から、2番目の制度を動かしています。フィリピンには、1番目の制度がまだありません

フィリピンで法人税を免除された日本企業のお金の流れ
  1. 経済特区に入る法人税がゼロになる

    フィリピン政府が免除する

  2. 2024年4月以降🇯🇵 日本で上乗せ課税

    15%との差を親会社が日本で納める

  3. 結果免除分は日本の国庫へ

    企業の得にはならない

対象は連結売上が約450億ペソ(約1,170億円)以上のグループ。実際に納めるかは実効税率の計算による。

フィリピン政府は税を取らず、企業も得をせず、日本の国庫だけが増えます。この状態が2年以上続いています。 下院の調査部門も、2025年2月の報告書で同じ指摘をしていました。フィリピンには親会社を置く多国籍企業がほとんどいないため、上乗せ分は「フィリピンの外」で徴収されうる、という書き方です。

フィリピンがいま作ろうとしている法律は、取り手を戻すためのもの

財務省が9月2日に説明したのが、1番目の制度です。フィリピン自身が上乗せ分を先に取れるようにします。試算では年平均 244億ペソ(約634億円) の増収になります。

ここが要点です。企業から見れば、納める総額は変わりません。払う先が変わるだけです。

現地の会計事務所も同じ整理をしています。「この制度の導入は、上乗せ税を徴収する優先権を内国歳入庁に与える」。裏を返せば、作るまでは他国が取り続けるということです。

実際、大企業の税率は5〜6%しかない

「15%を下回る」というのは、どのくらいの話なのでしょうか。下院の調査部門が、税務当局に提出された法人税の申告データで調べています。

対象は 売上上位1%の法人、およそ2,000社。多国籍企業の子会社が多く含まれる層です。

フィリピンの売上上位1%の法人の実効税率(中央値)(単位:%
最低ライン
15
2020年
5.94
2021年
5.97
2022年
4.61

下院の調査部門が税務当局の申告データから算出。平均値は7.57%・7.29%・6.36%で、いずれも低下している。

中央値は5〜6%で、しかも下がっています。平均でも7.57%(2020年)から6.36%(2022年)へ落ちています。

なぜ、こんなに低いのでしょうか。不正ではありません

同報告書は「法定税率と算出した実効税率の差は、課税所得を減らす控除の大きさを表している」と書いています。制度が認めた優遇と控除を積み上げた結果です。

  • 経済特区での 法人税の免除(4〜7年)
  • そのあとの 総所得への5%課税
  • 設備の減価償却、人件費、研究開発などの 各種の控除

どれも法律にもとづくもので、企業は決められたとおりに申告しています。制度上の税率は25%でも、実際に払う割合は5%台になる。その差が、そのまま上乗せの対象になります。

この数字の読み方に注意

この5〜6%は、最低税率の判定に使う税率そのものではありません。報告書自身が、財務会計上の利益を分母にしているため実際より高めに出ている可能性があること、実質ベースの控除を引くとさらにずれることを断っています。上乗せの対象になりうる会社が多い、という傾向を示す数字として扱うのが正しい読み方です。

消えるのは「利益を軽くする優遇」だけ

では、フィリピンの優遇はすべて無意味になるのでしょうか。財務省は、影響を受けるものと受けないものをはっきり分けています。

フィリピンの法人税の水準と、最低ライン15%の関係(単位:%
通常の法人税
25
費用を割り増しで引ける制度
20
最低ライン
15
総所得への5%課税
5
法人税の免除
0

15%を下回る2つが上乗せの対象になる。判定に使うのは法定の税率ではなく、実際に払った税額から計算する実効税率である。

分かれ目は単純です。利益そのものを軽くする優遇は消え、費用を多く引ける優遇は残ります

残るほうは2024年11月の法改正で強化されたばかりです。税率は20%で最低ラインを上回り、差し引ける項目も具体的です。電力費は全額、研究開発と教育訓練も全額、人件費と国内調達は5割増し、といった内容です。関税と付加価値税の優遇も影響を受けません。

ただし注意が要ります。判定は法定税率ではなく実際の納税額で行うため、割り増しの控除が大きければ20%の制度でも15%を割ることはありえます。

対象1,001グループのうち、4社に1社は日本の会社

規模を見ておきます。財務省の集計では、対象は 1,001の企業グループ、国内の子会社にして 4,037社です。

対象となる企業グループの親会社の国1,001グループ
24%
22%
7%
6%
41%
  • 日本最多
  • 米国
  • ドイツ
  • 英国
  • その他上記以外

財務省がORBISの2021〜2024年のデータで集計。「その他」は公表された4か国から編集部が差し引いて算出した。

親会社の国では日本が最も多く、全体の24%を占めます。子会社の業種では製造業が10.4%で最多でした。下院の報告書も、フィリピンには法人税の免除や特別税率を使う 製造業・業務受託・再生可能エネルギーの企業が多いと指摘しています。

近隣はもう入れている

上乗せ課税の制度
2024年1月からベトナム
2025年からインドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ
まだ無いフィリピン、ほか4か国

ベトナムは2023年11月に国会で決議し、2024年1月から始めました。優遇税率を使ってきた大手外資およそ100社が対象で、サムスン、インテル、LGが含まれます。シンガポールでは対象がおよそ1,800社にのぼり、法人税率17%でも各種の減免で大半が15%を下回っているとされます。

フィリピンは2023年に枠組みの参加国になりましたが、2024年12月の時点で 「発表なし」 の扱いでした。財務省の想定では、年内に法案が通れば適用は2027年の課税年度、徴収は2029年からになります。

税で競争できないなら、何で選ばれるのか

財務省の担当者は、こう述べています。

「各国が低い実効税率で競争できる余地が小さくなるにつれ、投資家は立地や拡張を決めるときに、事業環境全体の質をより重く見るようになる

挙げたのは、事業のやりやすさ、インフラ、物流、エネルギー費用の4つでした。下院の報告書も同じ方向で、熟練労働者の確保と人材へのアクセスを加えています。

その4つが、いまフィリピンで置かれている状況です。

代わりの手も検討されています。下院の報告書によれば、マレーシアとベトナムは 現金の補助金と、還付を受けられる税額控除を検討中です。ほかに、税以外の優遇、無利子の融資、出資規制の緩和も挙げられています。フィリピンも同じ道を取りうる、というのが報告書の提案です。

この読み方が外れるとしたら

フィリピンの法人税の免除は、大きな日本企業にとってはもう得になっていません。フィリピンで払わずに済んだ分は、2024年4月から日本で払うことになっています。フィリピンがいま作ろうとしている法律は、新しく企業から取るためではなく、他国へ渡っている分を自国に戻すためのものです。企業にとって変わるのは税額ではなく、「税の優遇を立地の理由にできなくなる」ことのほうです。

ただし、この読み方が外れる筋も3つあります。

  1. 実効税率の計算で、多くの企業が15%を下回らないこと。判定は実際の納税額で行われ、設備と人件費に応じた除外もあります。対象でも上乗せが生じない企業が多ければ、影響は限定的になります。
  2. フィリピンが代わりの優遇を用意すること。費用を割り増しで引ける制度を厚くするか、現金の補助金や還付つきの税額控除を作れば、実質の負担は下げられます。優遇は形を変えて残ります。
  3. 法案が年内に通らないこと。適用2027年・徴収2029年という前提が後ろへずれます。その間、上乗せ分は他国が取り続けます。

観測すべきは、9月に提出されるとされる税制改革法案にこの制度が入るか、そして入った場合に、費用ベースの優遇や現金補助をどこまで厚くする案が併せて出てくるかです。

換算は1ペソ=2.6円(2026年8月21日時点)で計算した目安です。

SOURCES / 出典

  1. BusinessWorldメディア
    QDMTT seen generating P24.4B annually — DoFbworldonline.com
  2. The Philippine Starメディア
    ‘Global minimum tax to raise additional P24.4 billion revenues yearly’philstar.com
  3. Congressional Policy and Budget Research Department, House of Representatives政府・規制当局一次情報
    CPBRD Policy Brief No. 2025-03: Global Minimum Tax — What it means for the Philippine Tax Systemcpbrd.congress.gov.ph
  4. Grant Thornton Philippines調査・レポート
    BEPS Pillar 2: What now in the ASEAN and What's Next for the Philippinesgrantthornton.com.ph
  5. EY Japan調査・レポート
    2025 Japan tax reform measures related to global minimum tax come into effect - UTPR and QDMTTey.com
  6. PwC Worldwide Tax Summaries調査・レポート
    Philippines - Corporate - Tax credits and incentivestaxsummaries.pwc.com

参考(本文の補足)

  1. Department of Finance (Philippines)Department of Finance

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#QDMTT#グローバルミニマム課税#所得税免除#PEZA#優遇税制#財務省#日本企業

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