PHILIPPINES STARTUP

電気代が年金を超えた家が、屋根に太陽光を載せて請求ゼロにした

KEY POINTS

ニュースの要点
電気代が年金を上回るパンパンガ州の世帯が、8キロワットピークの太陽光を自力設置して35万ペソに抑え、2年近く請求ゼロを続けている。Meralcoの家庭用料金は6月時点で1キロワット時14.48ペソと国内4番目に高い。
この動きの意味
政府はエネルギー非常事態宣言を受けてネットメータリングの審査を10営業日に短縮し、期限超過はみなし承認とした。家庭が自前で発電を始める動きは、節約の工夫であると同時に系統への依存を家計の判断で減らす動きでもある。
今後の注目点
ネットメータリングの申請件数が実際に伸びるか。10営業日の期限が現場で守られるか。屋根置き太陽光向けのローン商品が広がるか。非常事態宣言が解除された後も短縮された期限が維持されるか。

パンパンガ州グアグアに住む64歳の Mariano Lerit 氏の毎月の電気代は、約1万2,000ペソ(約3万1,000円) だった。社会保障制度から受け取る年金は8,000ペソ(約2万800円)である。電気代のほうが年金より高い。

海外での出稼ぎから戻った同氏は、年金の一時金と貯金で自宅に太陽光を載せた。設置業者の見積もりは約50万ペソ(約130万円)。高すぎたので機材を自分で調達し、設置も自分でやって35万ペソ(約91万円) に収めた。8キロワットピークの設備である。

「ほぼ2年間、請求はゼロだ。雨季で発電が伸びないときでも1,000〜2,000ペソ(約2,600〜5,200円)を払うだけになった」

節約したぶんで、エアコンを増やした

Lerit氏の家では、電気代が下がった結果として使い方のほうが変わった。以前は家電のスイッチひとつに気を遣っていたのが、いまは調理にも電気を使う。電気温水器で温かいシャワーを浴び、夜はエアコンで眠る。「リビング全体にもエアコンを1台足した」

ラグナ州カブヤオに住む42歳の Manuel Catanduanes 氏の場合はこうである。

設備5.8キロワットピーク
費用20万ペソ(約52万円)超。うち約6万ペソ(約15万6,000円)がネットメータリング関連
資金ローン
電気代7,000〜8,000ペソ → 直近は1,900ペソ(約4,900円)

同氏の言い分は、家計の話として分かりやすい。「電力会社に払うより、ローンを払うほうが受け入れやすい

1キロワット時14.48ペソという水準

なぜこうなるのか。カブヤオに電気を供給しているのは、800万件超の顧客を抱える国内最大の配電会社 Meralco である。エネルギー省の最新データによれば、Meralcoの6月の家庭用の系統電力料金は 1キロワット時あたり14.48ペソ(約38円) で、国内の配電会社のうち4番目に高い。

所得水準を考えれば、体感の重さは日本の比ではない。世帯の支出の伸びが所得の伸びを上回っているなかで、電気代は削れない固定費として効いてくる。

政府は「審査を10営業日に」と命じた

屋根に載せるだけなら誰でもできる。ただし 余った電気を系統に流して料金から差し引いてもらう には、ネットメータリングの手続きが要る。ここが詰まっていた。

エネルギー省は、エネルギー非常事態宣言(大統領令110号)を受けて、手続きの期限を短くした。

  • 配電会社・電力協同組合は、技術的な修正も含めて 10営業日以内(従来は最大20営業日)。延長は認めない
  • 地方自治体の関連許認可は 3営業日以内
  • 期限内に処理されなければ 承認されたものとみなす(みなし承認)

エネルギー省の Sharon Garin 長官は「ネットメータリングにおける不必要な遅れは、そのままフィリピンの消費者にとっての節約の遅れである」と述べた。この措置は、エネルギー非常事態が続くあいだ有効とされている。

ネットメータリングは2008年の再生可能エネルギー法(共和国法9513号)に基づく制度で、100キロワットまでの再エネ設備を持つ需要家が対象になる。

家庭の屋根と、地中と、両方に手を伸ばしている

もっとも、PhilSTARの取材によれば、書類の上で2週間強で済むはずの手続きが、現場ではそのとおりに進むとは限らない。

政府の側から見ると、この動きは電源政策の一部でもある。発電所を建てる話と、家庭の屋根の話が同じ非常事態宣言の下で動いている。同じ日には、地熱の探査掘削費を政府が最大50%負担する制度に17社が並んだことも明らかになった。

背景にあるのは、石炭の輸入の95%をインドネシアに頼る構造と、ビサヤ地方の系統に繰り返し出る供給不足の警報である。シンクタンクの試算では、再生可能エネルギーの導入によって2年間で992億ペソ(約2,600億円)の電力費が圧縮されたとされる。

家庭が自前で発電を始めるという現象は、節約の工夫であると同時に、系統への依存を家計の判断で減らしているという意味を持つ。その積み上がりが電力需要にどう効くかは、これから数字に出てくる。

換算は1ペソ=2.6円(2026年8月21日時点)で計算した目安である。

SOURCES / 出典

  1. The Philippine Starメディア
    Sky-high power bills push Pinoys to go solarphilstar.com
  2. Power Philippinesメディア
    DOE cuts net metering approval to 10 days amid energy emergencypowerphilippines.com

参考(本文の補足)

  1. MeralcoManila Electric Company
  2. Department of Energy (Philippines)Department of Energy

SHARE

#太陽光#ネットメータリング#Meralco#DOE#電気代#エネルギー非常事態#再生可能エネルギー

同じカテゴリーのNews

RELATED

この動きを読み解くInsights

INSIGHTS
市場分析

英語と安さで選ばれたフィリピンの画面に、世界の口座と診療記録が映っている

フィリピンのコールセンターが選ばれてきた理由は、英語が通じて安いことです。業界団体自身の資料がそう書いています。ところがそこに届いているのは、世界の銀行と医療のユーザーからの問い合わせでした。選ばれた理由と任されている中身が噛み合っていません。2年で2度、オーストラリア企業の顧客情報がマニラを経路に抜かれ、アナリストは「顧客はリスクを拠点の所在地で値付けする」と言います。

三井住友は、なぜフィリピンの同じ財閥に5年で4回も出資したのか

日本の三井住友グループが、フィリピンで5年に4回、同じ企業グループの会社に出資しています。銀行に3回、そのリース会社、そして風力発電会社。フィリピンでは外国企業が銀行を100%買えるのに、三井住友は4分の1弱で止めています。買い取るつもりがないなら、何を狙っているのか。会社そのものより、その財閥が持つ顧客基盤でした。

企業分析

600社が使ったSalariumは2023年にサービスを無期限停止、倒産も解散もしていない

フィリピンで勤怠から給与の振り込みまでを1つで担っていたSalariumは、2019年時点で約600社が使い、2021年までに2万社へ広げると語っていた会社でした。2023年8月に利用企業が資金を引き出せなくなり、12月31日にサービスを無期限で停止します。ただし倒産も解散もしていません。法人はいまも登記に残ったままです。何が起きたのかをたどります。