PHILIPPINES STARTUP
INSIGHTSトレンド

フィリピンの電気代が東南アジアで一番高い、直撃するのは半導体と精密電子の工場

フィリピンの平均電力価格が2026年6月に1キロワット時12.43ペソとなり、シンガポールを抜いて東南アジアで最も高くなりました。この高さが最も重くのしかかる日系企業は、半導体と精密電子の製造業です。単価が原価に乗るうえ、停電が頻発する地域では自家発電を持たされ、製造コストがさらに上がります。しかも影響は、進出をやめた素材・部品産業という形でも現れています。

フィリピンの電気代が東南アジアで一番高い、直撃するのは半導体と精密電子の工場

フィリピンの電気代が、東南アジアで最も高くなりました。政府自身が7月にそう認めています。

では、この高さがいちばん重くのしかかる日系企業はどこか。半導体と精密電子の製造業です。単価が原価に乗るだけでなく、停電が頻発する地域では自家発電を持たざるをえず、製造コストがさらに上がります。

政府自身が「東南アジアで一番高い」と認めた

エネルギー省が7月に公表した数字です。6月の平均は1キロワット時あたり 12.43ペソ(約31円)。それまで域内で最も高かったシンガポールを0.09ペソ上回りました。

同じ国のなかでも、場所によって大きく違います。

1キロワット時あたり
フィリピン平均(6月)12.43ペソ
シンガポール平均(6月)12.34ペソ
マニラ首都圏14.48ペソ
南レイテの電力協同組合16.57ペソ
ブスアンガ島(送電網につながっていない)24.92ペソ

首都圏と離島では、2倍近い開きがあります。

日本と比べると、水準が実感しやすくなります。マニラの家庭向けの単価は、すでに東京とほぼ同じです。人件費が3分の1でも、電気は3分の1になりません。

半導体と精密電子には、二重に効く

なぜこの業種なのか。理由は2つあります。

ひとつは、電気の使用量です。半導体の組み立てと検査、精密な電子部品の生産は、ちりを嫌う部屋の空調と、温度と湿度の管理を24時間止められません。原価に占める電気代の割合が、事務所中心の事業とは桁が違います。

もうひとつが、停電です。ジェトロの調査によれば、一部地域では停電が頻発するため、半導体や精密電子の生産にはバックアップ電源が必要になり、製造コストを大きく押し上げています。

実際、電力の供給は安定していません。エネルギー省が6月の高値の理由に挙げたのも、ビサヤ地方の供給不足と発電所の停止でした。ビサヤでは供給が細る警戒段階が「ほぼ常態化していた」といいます。8月には同じ地方で、最も強い段階の警報が出ました

単価の高さは、原価計算に織り込めます。織り込みにくいのは、突然止まることのほうです。自家発電を持てば止まりませんが、その設備と燃料代がまた原価に乗ります。二重に効く、というのはこの意味です。

そして、この分野はフィリピンにおける日系製造業の中心にあたります。ジェトロは、日本からの投資が2010年代の事務機器・電気電子機器と部品関連の相次ぐ参入以降も製造業中心であるとし、電気電子機器・部品と輸送機器・部品を主要分野に挙げています。

一方で、事務所中心の事業にはほとんど効かない

同じ電気代でも、業種によって意味がまったく変わります。

電気の使い方効き方
半導体・精密電子、データセンター、冷蔵倉庫24時間止められない。停電が許されない原価に直接乗る。立地の判断を左右する
24時間稼働のコールセンター、商業施設空調と機器が止まらないそれなりに効く
営業所、設計・企画の事務所照明と空調が中心人件費や家賃に比べれば小さい

だから、日系企業全体に聞くと電気代は上位に出てきません。

フィリピンに進出した日系企業が挙げる経営上の問題(単位:%
税務手続きの煩雑さ
62.5
自然災害
51.3
政策の不透明さ
50
許認可の煩雑さ
48.8
賃金の上昇
42.5
人材の定着難
40

ジェトロの現地日系企業向け調査。リスクについては160社が回答。電気代は比率つきの項目としては出ておらず、『エネルギーを多く使う産業への抑止要因』として記述されている。

最上位は税務手続きの煩雑さで62.5%。これは業種を問わず全社にかかる負担なので、全体の調査では上位に出ます。

ここで「電気は問題ではない」と読んではいけません。同じ調査で電気代は「エネルギーを多く使う産業への抑止要因」として書かれています。聞いている相手が違うだけです。全業種に平均をとれば埋もれる。半導体工場に聞けば、立地を決める要因になる。

いちばん大きな影響は、「来なかった産業」に出ている

ここからが、この記事でいちばん伝えたいところです。

ジェトロの取材に、こんな声があります。

電気を大量に使う産業は進出しづらく、それが裾野産業の広がりを妨げる理由の1つにもなっている

フィリピン進出の日系製造業ジェトロの取材に対してジェトロ「ASEAN主要国の産業政策と企業によるサプライチェーン対応」2025年

電気代の影響は、進出した企業のコストだけではありません。そもそも進出しなかった産業という形でも現れています。

電気を大量に使うのは、素材や部品をつくる工程です。鋳造、めっき、熱処理、樹脂の成形。こうした工程がフィリピンに集まらないと何が起きるか。ジェトロはこう書いています。素材・部品産業が全般的に脆弱で、輸入に依存せざるをえない

そして、ここが数字につながります。フィリピンの1〜7月の輸出は549億ドル(約8兆5,600億円)と統計開始以来の最高でしたが、同じ期間の貿易赤字は29%広がりました。輸出の58.8%を占める電子製品が、部品を輸入して組み立てる構造だからです。輸出が伸びるほど、輸入も伸びる。

同じことは自動車でも起きています。調査会社BMIは、フィリピンが地域の自動車生産拠点になる道は険しいとし、理由に 現地の部品供給網の弱さと、輸送・エネルギーのインフラの不安定さを挙げました。電動車の販売は136%伸びているのに、生産は8.7%減る見通しです

つまり、電気代の高さは 組み立てだけが残り、その上流が育たないという形で効いています。

高いのは市況ではなく、2001年の制度設計による

なぜ、そこまで高いのか。一時的な燃料高ではありません。

2001年の電力産業改革法が、発電・送電・配電・小売を切り分け、発電と小売を民間に開放しました。近隣の国では政府が電力事業そのものを担っていることが多く、ここが違います。

もうひとつ大きいのが、かかった費用をそのまま請求に載せる仕組みです。近隣国が補助で電気代を抑えるのに対し、フィリピンは発電・送電・配電・税金・送電の途中で失われる分を、項目ごとに消費者へ回します。燃料が上がれば、その分がそのまま請求書に出ます。

IBON財団のSonny Africa代表は、域内で最も民営化が進んだ2つの電力部門が、最も高い電気代の2つでもあると指摘しています。発電と配電の8割を5〜8社が握っているという集中の問題も挙がっています。

燃料が落ち着けば下がる、という種類の高さではありません。

見るべきは全国平均ではなく、自社の工程

意思決定に使える形にまとめます。

まず、自社の工程が電気を止められるかを見てください。止められない工程を持つなら、この記事の前半がそのまま効きます。止められるなら、電気代は判断材料の上位に来ません。

次に、置く場所を見てください。首都圏で14.48ペソ、送電網から離れた島では24.92ペソ。全国平均の12.43ペソは、どこの会社も実際には払っていない数字です。

最後に、部品をどこから買うかを見てください。現地に素材・部品の産業が薄いのは、電気代の結果でもあります。現地調達率の想定を高く置きすぎると、計画が狂います。

動きはあります。経済特区の中に専用の配電網を敷けるかの検討が始まり需要家が電力の供給元を選べる制度も使われ始めました。全国平均は動かせなくても、自社の請求書は動かせます。

ただし結果はまだ出ていません。1〜5月の海外直接投資は33.4%減り、5月単月は11年ぶりの低さでした電気代の高さは、いま進出している企業の原価だけでなく、これから来るはずだった産業の数にも効いています。

換算は1ドル=155.9円、1ペソ=2.49円(2026年9月4日時点)で計算した目安です。

SOURCES / 出典

  1. PhilSTARメディア
    DOE: Philippines power rates now highest in SEAphilstar.com
  2. GMA News Onlineメディア
    EXPLAINER: Why is electricity expensive in the Philippines?gmanetwork.com
  3. 日本貿易振興機構(ジェトロ)政府・規制当局一次情報
    フィリピンの投資環境(1)製造業、「豊富な人材」に強みjetro.go.jp
  4. 日本貿易振興機構(ジェトロ)政府・規制当局一次情報
    フィリピン(3)裾野産業の育成と産業基盤の強化が急務jetro.go.jp

参考(本文の補足)

  1. The Manila TimesPhilippines has highest power rates in June in Southeast Asia
  2. PhilSTAR'Philippines falls behind in race for foreign investments'
  3. Vietnam BriefingVietnam FDI Update: Q1 2026 Performance and Key Trends
  4. PHILIPPINES STARTUP(当サイトのNews)Visayas grid placed on red alert
  5. Philippine Daily InquirerPH exports hit record $54.9B in 7 months
  6. Philippine Daily InquirerPH faces bumpy road to becoming auto hub–BMI

SHARE

#電気料金#事業コスト#海外直接投資#ジェトロ#電力産業改革法#経済特区#税務調査

同じカテゴリーのInsights

RELATED

関連するNews

NEWS

フィリピンへの海外直接投資が33%減、5月は11年ぶりの低さ

2026年1〜5月のフィリピンへの海外直接投資の純流入は21億7,800万ドル(約3,400億円)で前年同期比33.4%減った。5月単月は2億1,000万ドルと2015年3月以来の低さ。証券投資も1〜7月で39億4,000万ドルの純流出である。外資規制の自由化は進んだのに投資が来ない理由として、電気代・物流費・港湾混雑・熟練労働者の不足といった事業コストが挙げられている。

BIRが税務調査の対象をシステム選定に、同一年度の調査は原則1回に

フィリピン内国歳入庁が歳入覚書命令22-2026号で税務調査のやり方を定め直した。対象は検証可能なデータにもとづき機械的に選び、割り当ての段階では納税者名を伏せる。優先調査の基準も公表され、親会社が子会社に配賦する共通費(EPA)が明示された。同一年度に出せる電子調査権限書は原則1通に統合され、調査官には同時30件の上限と担当の交代が課される。

提携

PEZAとPrimelectricが覚書、経済特区に専用の配電網を建てる検討へ

フィリピン経済区庁(PEZA)と、実業家Enrique Razon Jr.氏が率いるPrimelectric Holdingsが覚書を交わした。経済特区のなかに配電設備を建てられるかを検討する内容で、PEZAが優先する特区を選び、Primelectricが採算を調べる。PEZAのPanga長官は「エネルギーの信頼性はもはや電力会社だけの問題ではなく、投資の問題である」と述べている。対象の特区や時期は未定。