BIRが税務調査の対象をシステム選定に、同一年度の調査は原則1回に
KEY POINTS
- ニュースの要点
- フィリピン内国歳入庁が歳入覚書命令22-2026号を出し、税務調査の選定・実施・管理を定め直した。対象は検証可能なデータにもとづきシステムが選び、統括官と調査官への割り当て段階では納税者の識別情報を伏せる。同一課税年度に出せる電子調査権限書は原則1通である。
- この動きの意味
- 誰を調べるかを調べる側が選べない構造にした点が核心である。公表された優先調査の基準には、親会社が子会社に配賦する共通費や、法人税額が売上高の2%未満といった数字で判定できる条件が並び、企業が自社の該当可能性を事前に確認できるようになった。
- 今後の注目点
- レバリダ(調査官の調査)の範囲を定める通達が出るか。実際に発行されるeLAの件数が減るか。複数のeLAの統合が現場で実行されるか。優遇措置を受ける法人の扱いが運用でどうなるか。
フィリピンの内国歳入庁(BIR)が、税務調査のやり方を定め直した。歳入覚書命令22-2026号(RMO No. 022-2026)で、文書の日付は8月21日、記録上の受理は8月24日である。
変わるところは大きく3つある。誰を調べるかの決め方、同じ年度を何回調べられるか、調べる側の管理である。
対象は、人ではなくシステムが選ぶ
これまで調査対象の選定には、担当部署の裁量が入る余地があった。新しい命令は、検証可能なデータにもとづく機械的な選定に切り替える。
さらに踏み込んでいるのが、割り当ての匿名化である。事案を統括官(GS)と調査官(RO)に割り当てる段階では、納税者が誰かを伏せる。情報システム部門が識別情報を復号するのは、割り当てが終わったあとになる。
誰を調べるかを、調べる人が選べない構造にした、ということである。
選定の基準が公表された
実務上いちばん効くのはここである。優先調査の対象になる条件が、命令の中に一覧として並んでいる。主なものを挙げる。
| コード | 条件 |
|---|---|
| EIL | 仕入税額が売上税額の 75%を超える |
| LOW | 法人税額が売上高の 2%未満 |
| DIT | 売上や付加価値税が大きく落ち込んでいる |
| LST | 過去5年間、調査を受けていない |
| EPA | 親会社が子会社に配賦する共通費など、企業グループ内で相互に付け替えられている費用 |
EPAは、日本の親会社を持つ現地法人に直接当たる。命令の文言は「親会社がその関係会社に、また関係会社が別の関係会社に配賦している共通費その他の相互に関連する費用」である。経営指導料、共通管理費、グループ内のサービス対価は、まさにこれに該当する。
基準が公表されたということは、自社が該当するかどうかを事前に確かめられるということでもある。LOWの「法人税額が売上高の2%未満」のように、数字で判定できるものが含まれている。
なお優遇措置の適用を受けている法人(コードINC)は、他の条件に当たらないかぎり自動的な調査対象から外れる。経済特区に入る企業の多くがここに含まれる。
同じ年度に出せる調査権限書は1通
フィリピンで税務調査を始めるには、電子調査権限書(eLA)が要る。従来はこれが同じ年度に複数出ることがあり、企業は同じ期間について何度も調査を受けることになっていた。
命令にはこう書かれている。納税者は所定の例外を除き、ある課税年度について1通のeLAのみの対象となり、その1通がすべての税目を含む。複数出ている場合は1通に統合し、それ以前のものは取り消す。
調べる側にも枠がはまった
調査官の側にも制約が入った。
- 同時に担当できるのは 30件まで(義務的調査は別枠)
- 未処理案件が多い、期限切れが近い案件を抱えている、6か月以内に退職予定といった場合は割り当てから外す
- 同じ調査官が、同じ納税者を前年に続けて担当できない(調査官が4人以下の税務署は例外)
さらに「レバリダ(Revalida=調査官の調査)」が置かれた。税務調査審査課が、調査報告と課税処分の技術的な妥当性を事後に検証する。ただしこの仕組みの範囲は別の通達に委ねられており、課税処分を修正できるのか、納税者に通知が行くのかは、まだ定まっていない。
日本企業が備えるべきこと
この改正は、負担が「調査中」から「調査前」へ移るという性格を持つ。
会計事務所Reyes Tacandong & Co.の解説によれば、資料の提出は 10日単位で求められ、応じなければ召喚状や刑事責任の話に進む。調査の場所をどこにするか、誰を代理人にするかも、eLAが交付された時点で決めておく必要がある。
つまり問われるのは、10日以内に完全な資料を出せる体制があるかである。海外直接投資が33%減った背景として「事業を営むコスト」が指摘されているなかで、裁量の余地を減らす方向の制度変更は、その負担を軽くする側に働きうる。
ただし命令は内部の手続きを定めたものであって、実際に運用が変わるかどうかは別の話である。見るべきはレバリダの範囲を定める通達と、実際に出るeLAの数になる。
SOURCES / 出典
- Bureau of Internal Revenue政府・規制当局一次情報Revenue Memorandum Order No. 022-2026: Prescribing the Consolidated and Revised Policies, Guidelines and Procedures for the Bureau of Internal Revenue Audit Programbir-cdn.bir.gov.ph
- Philippine Daily InquirerメディアBIR rolls out new risk-based audit programbusiness.inquirer.net
参考(本文の補足)
- Reyes Tacandong & Co.RMO No. 22-2026 and the Institutionalization of BIR Audit Reform
- Bureau of Internal RevenueBureau of Internal Revenue
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