取引停止中の送金会社I-Remit、2,000万ペソの増資で40日分の運転資金を確保
KEY POINTS
- ニュースの要点
- I-Remitの緊急取締役会が8月14日、決済会社Surepay Technologiesへ未引受株1,000万株を1株2ペソ、総額2,000万ペソ(約5,200万円)で割り当てる基本合意を承認した。7月23日の開示には、この資金が「5日間のデューデリジェンスの対価と、40日分の運転資金」だと書かれている。
- この動きの意味
- 成長のための調達ではない。決算の提出が遅れて売買を止められた上場企業が、当面の運転資金をつなぐための増資である。会社が自ら「40日分」と日数で書いたことに、いまの余力が表れている。
- 今後の注目点
- 基本合意が正式契約に進むか。新しい監査法人による2025年度の決算がいつ出るか。取引停止が解除されるか。Surepayが1.6%からさらに出資比率を上げるか。
フィリピンの上場送金会社I-Remitの緊急取締役会が8月14日、決済会社Surepay Technologies Inc. との基本合意(バインディング・タームシート)を承認した。未引受の普通株1,000万株を1株2ペソ、総額2,000万ペソ(約5,200万円)で割り当てる。
金額よりも、取引所への開示に書かれた資金の用途が事実を語っている。7月23日の開示によれば、この2,000万ペソは 「5日間のデューデリジェンスの対価と、40日分の運転資金」 にあてられる。会社が自ら、手元の余力を日数で書いた形になる。
株式は2025年5月から売買できない
I-Remitは2007年10月に上場した送金会社で、海外で働くフィリピン人からの送金を扱ってきた。ただし PSE Edge(証券取引所の適時開示システム)上の状態は Suspended(取引停止) で、直近の売買は2025年5月15日、株価は0.199ペソだった。時価総額は1億2,172万ペソ(約3億2,000万円)で止まっている。停止の理由は、この銘柄ページには書かれていない。
開示を並べると、決算の提出が遅れている状況が見える。8月17日には四半期報告書の提出延期(SEC Form 17-Q)を届け出た。理由は「新しい監査法人からの財務諸表を待っているため」。その新しい監査法人 Moore Roxas Tabamo & Co. は、7月23日の取締役会で 2025年度の決算を監査するために 選任されたばかりだった。2026年8月の時点で、前年度の決算がまだ確定していない。
「緊急取締役会」は言葉のあやではない
この記事に出てくる緊急取締役会(emergency board)は、単なる臨時の会議ではない。7月31日の開示によれば、残った取締役たちが改正会社法第28条にもとづき、社内の4人を一時的な取締役に選任した。取締役が足りず通常の決議ができなくなったときに、社内から員数を補って議決できる状態を作る制度 である。
| 一時取締役に選ばれた4人 | 本来の役職 |
|---|---|
| Maria Cristina S. Castillejo | 上級執行副社長 兼 最高執行責任者 |
| Severino A. Lagan Jr. | 情報技術担当 副社長 |
| Juan Angel L. Tinio | 上級副社長 兼 最高リスク管理責任者 |
| Franco C. Monserrat | グローバルマーケティング担当 アシスタントマネージャー |
任期は8月7日から9月7日までと区切られている。この会社は、通常の取締役会でSurepayとの契約を決められる状態になかった。
副会長が47%を握った
8月14日の開示で、副会長のBen Tiu氏の持ち株比率が 47% になったことが明らかになった。いつどのように積み上げたかの説明はない。
同じ決議で、Tiu氏は契約書類に署名する権限者に指名された。7月31日の開示では、この役はMaria Rodora Banares最高経営責任者が担う予定だった。2週間で署名権が最高経営責任者から副会長へ移っている。
引受先のSurepayは決済会社
Surepay Technologies Inc. は2019年設立で、中央銀行(BSP)の監督を受ける決済サービス事業者である。I-Remitは同社について、自社や役員・主要株主との重要な関係はないと開示している。条件は独立した当事者間で交渉したもので、関連当事者取引ではないという位置づけである。
引き受ける1,000万株は、発行済み株式6億1,164万株の 約1.6% にあたる。2,000万ペソで会社を支配できる規模ではない。5日間のデューデリジェンスを終えたあと資本関係をどうするかは、開示されていない。
1株2ペソという価格は、直近の売買値0.199ペソのおよそ10倍にあたる。ただしこの株価は15か月前のもので、いまの価値を示すものではない。同社株の額面は1ペソで、フィリピンでは額面を下回る価格で新株を発行できない。
そのほかの決議
取締役会はこのほか、フィリピン国立銀行(PNB)アナポリス支店での口座開設を承認した。また、元株主のBansan Choa氏に対する未回収の貸付と「取りうる対応策」についても議論している。金額も対応策の中身も開示されていない。
円換算は2026年8月21日時点のレート(1ドル=159円、1ペソ=2.6円)による目安です。
SOURCES / 出典
- PSE Edge(I-Remit, Inc.)企業公式一次情報Material Information/Transactions(Results of the Emergency Board Meeting・2026年8月14日開催分)C06331-2026edge.pse.com.ph
- PSE Edge(I-Remit, Inc.)企業公式一次情報Material Information/Transactions(Results of the Emergency Board Meeting・2026年7月23日開催分)C05590-2026edge.pse.com.ph
- PSE Edgeexchange一次情報I-Remit, Inc. 銘柄ページ(Status: Suspended/直近売買 2025年5月15日 0.199ペソ/時価総額1億2,172万ペソ)edge.pse.com.ph
- The Philippine StarメディアI-Remit board clears Surepay dealphilstar.com
- BankeroメディアBen Tiu gains bigger say at I-Remit with 47% stakebankero.com.ph
参考(本文の補足)
- PSE Edge(I-Remit, Inc.)Request for extension to file SEC Form 17-Q CR06237-2026
- PSE Edge(I-Remit, Inc.)Material Information/Transactions(緊急取締役会の設置・改正会社法第28条)C05967-2026
- BankeroI-Remit taps Surepay for P20-million emergency lifeline
同じカテゴリーのNews
RELATEDこの動きを読み解くInsights
INSIGHTS三井住友は、なぜフィリピンの同じ財閥に5年で4回も出資したのか
日本の三井住友グループが、フィリピンで5年に4回、同じ企業グループの会社に出資しています。銀行に3回、そのリース会社、そして風力発電会社。フィリピンでは外国企業が銀行を100%買えるのに、三井住友は4分の1弱で止めています。買い取るつもりがないなら、何を狙っているのか。会社そのものより、その財閥が持つ顧客基盤でした。
600社が使ったSalariumは2023年にサービスを無期限停止、倒産も解散もしていない
フィリピンで勤怠から給与の振り込みまでを1つで担っていたSalariumは、2019年時点で約600社が使い、2021年までに2万社へ広げると語っていた会社でした。2023年8月に利用企業が資金を引き出せなくなり、12月31日にサービスを無期限で停止します。ただし倒産も解散もしていません。法人はいまも登記に残ったままです。何が起きたのかをたどります。
2025年のフィリピン最大の資金調達は5億円。それを超えるお金が国外から来る理由
Forbes Asiaの「100 to Watch」に、フィリピンから2社が入りました。並べてみると、フィリピンで大きな資金を集めた会社には共通点があります。お金を出しているのが、ほぼ全部フィリピンの外の投資家です。理由は起業家の考え方ではなく、国内のベンチャーファンドの大きさにありました。



