捨てられるカラマンシーの皮から、ジャムを固める材料を作るイロイロの新興企業
KEY POINTS
- ニュースの要点
- イロイロ拠点のCirPro Innovationsが、地元の農家やジュース加工業者から集めたカラマンシーの皮を使い、液体ペクチンを製造している。月に平均20キロの皮から15〜18リットルを作り、提携する喫茶店や飲食店へ月15〜20リットルを供給している。
- この動きの意味
- カラマンシーはフィリピンの食と飲料で広く使われるが、果汁を搾ったあとの皮は捨てられる。処分費用がかかっていた副産物を、ジャムやアイスクリームの安定剤という付加価値のある材料に変える事業設計になっている。技術は日本のリバネスのコンテストで最優秀賞を取り、科学技術省の支援先にもなっている。
- 今後の注目点
- 年産600リットルの目標に届くか。60キロ規模の原料供給の交渉がまとまるか。エンジェルまたはプレシードの調達が成立するか。試験提供している事業者が採用に進むか。
イロイロを拠点とする新興企業 CirPro Innovations が、捨てられる カラマンシーの皮から液体ペクチンを作っている。ペクチンは果実由来の 固める材料で、ジャムやアイスクリームなどに使われる。
創業者で最高執行責任者の Christine Faith Germinal 氏は、着想をこう説明した。
「カラマンシーの廃棄される皮は、きちんと処分・管理されなければ環境に有害だ。我々はそれを、食品業界に循環型の経済を作ることにもつながる良い事業機会だと考えた」
処分費用がかかっていたものを、材料に変える
カラマンシーはフィリピンの食と飲料で広く使われる柑橘だが、果汁を搾ったあとの皮は捨てられる。同社はその皮を地元の農家とジュース加工業者から引き取っている。加工業者にとっては、捨てれば処分費用がかかるものである。
「カラマンシーの皮を使うことは、カラマンシー果汁の生産の持続性を支えることにもなると気づいた」(Germinal氏)
製造の規模は次のとおりである。
| 原料 | 月に平均 20キロのカラマンシーの皮 |
| 生産量 | 月 15〜18リットルの液体ペクチン |
| 年間 | 約200リットル |
| 供給先 | 提携する喫茶店・飲食店へ月15〜20リットル |
| 設立 | 2024年 |
製品名は Limontene Liquid Pectin で、安定剤・食感を整える材料・固める材料として、ジャム、濃縮茶、ソース、ゼリー、アイスクリームに使える。
用途の説明が具体的である。「ジャムでは塗りやすさを良くし、固くなるのを防ぐ。アイスクリームでは安定剤として働き、氷の結晶ができるのを防いで溶けるのを遅くする」
自社製品にも使っている。カラマンシーと生姜の濃縮茶 CalZing で、このペクチンを入れることで冷たい水にも溶けるようになるという。
増やしたいのは、生産量ではなく原料
同社は年内に、年産を 少なくとも600リットルへ引き上げる計画である。いまの約200リットルから3倍になる。
そのために動いているのは原料の確保のほうである。約60キロの皮を供給できる大きな企業と交渉しており、さらに大量に供給できる別の候補も探しているという。月20キロで回している現状からすると、3倍の規模になる。
資金面では「規模を拡大するために、エンジェル投資家かプレシード投資家を得ようとしている」(Germinal氏)としている。
賞は取っている。足りないのは原料と資金である
同社は取材で語られた計画だけの会社ではない。2025年5月17日、マニラのサント・トマス大学で開かれた TECH PLANTER in the Philippines 2025 で最優秀賞(Grand Winner)を取っている。日本のリバネスが2017年からフィリピンで続けている技術系の新興企業のコンテストで、この回は味の素フィリピン、江崎グリコ、リバネス・キャピタル、PLDT、科学技術省の研究開発評議会などが支援していた。
科学技術省の技術応用推進機構(DOST-TAPI)の支援先でもあり、同機構が香港の技術見本市に送り出したフィリピンの6つの技術のひとつに Limontene Liquid Pectin が選ばれている。同機構の製品情報では、特徴として 賞味期限の延長、農業廃棄物の高い歩留まりでの再利用、副産物の同時抽出が挙げられている。
つまり、技術と評価はすでにある。足りないのは、月20キロという原料の量と、それを増やすための資金のほうである。
地方の一次産品を、材料に変える動き
この事業の位置づけを、フィリピンの文脈で見るとこうなる。首都圏ではなく地方の、しかも農産物の副産物を扱う事業者が、植物由来の材料を求める食品企業に売ろうとしている。
同じイロイロを含む地方では、セブ発の79店舗のスーパーがAIを使った会員基盤を作り、サリサリ店30万店をデジタル化したPackworksが購買データを広告に使う仕組みを立ち上げるといった動きが出ている。規模も業態も違うが、地方に事業の起点を置いたまま外へ売るという点は共通している。
換算は1ペソ=2.6円(2026年8月21日時点)で計算した目安である。
SOURCES / 出典
- BusinessWorldメディアStartup turns calamansi waste into versatile food ingredientbworldonline.com
- Leave a Nest(TECH PLANTER)企業公式一次情報CirPro Innovations Corp crowned as Grand Winner: TECH PLANTER in the Philippines 2025 pushed for Sustainability!techplanter.lne.st
- Inquirer Technologyメディア6 Filipino innovations showcased at inaugural Hong Kong tech expotechnology.inquirer.net
参考(本文の補足)
- BusinessWorldBusinessWorld Launchpad
同じカテゴリーのNews
RELATEDこの動きを読み解くInsights
INSIGHTS英語と安さで選ばれたフィリピンの画面に、世界の口座と診療記録が映っている
フィリピンのコールセンターが選ばれてきた理由は、英語が通じて安いことです。業界団体自身の資料がそう書いています。ところがそこに届いているのは、世界の銀行と医療のユーザーからの問い合わせでした。選ばれた理由と任されている中身が噛み合っていません。2年で2度、オーストラリア企業の顧客情報がマニラを経路に抜かれ、アナリストは「顧客はリスクを拠点の所在地で値付けする」と言います。
三井住友は、なぜフィリピンの同じ財閥に5年で4回も出資したのか
日本の三井住友グループが、フィリピンで5年に4回、同じ企業グループの会社に出資しています。銀行に3回、そのリース会社、そして風力発電会社。フィリピンでは外国企業が銀行を100%買えるのに、三井住友は4分の1弱で止めています。買い取るつもりがないなら、何を狙っているのか。会社そのものより、その財閥が持つ顧客基盤でした。
600社が使ったSalariumは2023年にサービスを無期限停止、倒産も解散もしていない
フィリピンで勤怠から給与の振り込みまでを1つで担っていたSalariumは、2019年時点で約600社が使い、2021年までに2万社へ広げると語っていた会社でした。2023年8月に利用企業が資金を引き出せなくなり、12月31日にサービスを無期限で停止します。ただし倒産も解散もしていません。法人はいまも登記に残ったままです。何が起きたのかをたどります。



