小売業界が越境ECの少額免税の完全撤廃を要求。年間574億ペソと試算
KEY POINTS
- ニュースの要点
- フィリピン小売業協会が、1件あたり1万ペソ以下の輸入品を関税・税金の対象外とするde minimisルールの完全撤廃を求めた。基準額の引き下げなど段階的な改革を提案していた2025年5月の立場からの転換である。
- この動きの意味
- 同協会の試算では、EC市場2,870億ペソの2割が海外購入だと仮定した場合、年間574億ペソ相当が非課税で入ってくる。小売業はGDPの16〜18%と1,000万人超の雇用を占めるため、越境ECとの課税差が雇用の議論に接続している。
- 今後の注目点
- 財務省が制度の見直しに着手するか。議会に法案が出るか。基準額の引き下げという折衷案に落ち着くか。マーケットプレイス各社が価格や配送体制を変えるか。
フィリピンの小売業界団体が、越境ECの荷物を非課税にしている de minimis(少額免税)ルール の完全撤廃を政府に求めている。年末商戦を前にした要求で、これまでの「基準額を下げてほしい」という立場からの転換にあたる。
現行のルールでは、1件あたり 1万ペソ(約2万6,000円)以下の輸入品には関税も税金もかからない。通関を速くするための制度だが、海外のECサイトから直接買う消費者が増えたことで、性格が変わった。
「引き下げ」から「撤廃」へ変わった
フィリピン小売業協会(PRA)の Roberto Claudio 会長は、方針の転換をこう説明した。
「基準額を下げても、フィリピンのほぼすべてのマーケットプレイスで売られている偽造品・模倣品の問題は解決しない。我々は de minimisルールの完全な撤廃 を提案する」
Claudio氏はスポーツ用品大手 Toby's Sports の創業者でもある。2025年5月の時点では、PRAは関税局長あての書簡で「基準額の引き下げ」「消費者1人あたり月間の利用回数の制限」「商用の再販目的なら課税する」といった 段階的な改革 を提案していた。完全撤廃は「踏み込みすぎ」というのが当時の立場だった。
- 2025年5月段階的な改革を提案
基準額の引き下げ・利用回数の制限・商用転売への課税
- 2026年3月財務省へ意見書
年間574億ペソが非課税で入っていると試算
- 2026年9月完全撤廃を要求
商用の荷物について免税そのものをなくす
Claudio会長は2025年時点では完全撤廃を「踏み込みすぎ」としていた。
574億ペソが、税を通らずに入ってくる
PRAが2026年3月に財務省へ出した意見書には、規模の試算が載っている。フィリピンのEC市場は2023年時点で 2,870億ペソ(約7,460億円)。その2割が海外のマーケットプレイスからの購入だと仮定すると、年間で 574億ペソ(約1,490億円) 相当の商品がde minimisの枠内で入ってくる計算になる。
「この状況が続くかぎり、我々は海外のオンライン業者に商売を奪われ続ける。そして政府は、de minimisルールがあるかぎり、従来型の小売業者から得られるはずの税と関税の収入を失い続ける」(Claudio氏)
PRAが持ち出す数字は、業界の重さでもある。
| 小売業のGDP比 | 16〜18% |
| 雇用 | 1,000万〜1,200万人 |
| 納税額 | 7,800億ペソ(約2兆円) |
消費者には「不人気」だと認めたうえで
PRAで理事長を務める Alice Liu 氏は、撤廃が消費者に歓迎されないことを認めている。輸入品の一部が高くなるからである。そのうえで、フィリピンの小売業の雇用を守れるならその取引は割に合う、と主張した。
「目先の1件の取引にかかる費用ではなく、より広い経済への影響を見なければならない。政府は、目先の消費者の利益と国のより長期の経済的利益を天秤にかける政策判断を迫られることがある。今回はそのひとつだと考えている」
Liu氏はまた、年末商戦の時期にこそ影響が顕著になると指摘した。小売各社はすでにコスト増に直面している。
政府はまだ動いていない
PRAは財務省(DOF)、貿易産業省(DTI)、そして議会に懸念を伝えてきたが、ルールの見直しについて確たる約束は得られていない。
この論点は、フィリピンだけのものではない。欧州連合と米国も少額免税の適用を見直す動きを進めており、Claudio氏は中国のマーケットプレイスからの注文について「個々は小さくても、集まれば大量の密輸に似た形になる。千の小さな傷のように、少しずつ地場の事業を蝕んでいく」と述べていた。
フィリピン向けに1万ペソ以下の商品を直送している事業者は、この制度の上に価格設定をしている可能性がある。撤廃されれば、関税・付加価値税の負担と通関の手間が同時に乗る。制度が変わるとすれば、現地に在庫を置くか、現地の販売パートナーを通すかという選択が前に出てくる。議論の主体が業界団体で、政府はまだ約束していない段階だが、方向としては欧米と同じ側を向いている。
換算は1ペソ=2.6円(2026年8月21日時点)で計算した目安である。
SOURCES / 出典
- Philippine Daily InquirerメディアRetailers renew push to scrap de minimis rulebusiness.inquirer.net
- The Philippine StarメディアRetailers push for de minimis removal, gradual reformsphilstar.com
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