フィリピンは多くの島々で形成されており、それぞれの地域に住む人々は独自の文化を築き上げてきました。部族ごとの個性豊かな文化は、現在も民芸品という形で多く残されており、民芸品を知ることはその地域の文化や歴史を知ることができるとも言えるでしょう。
今回はフィリピン南部ミンダナオ島に伝わるT'nalak(ティナラック)という、カラフルで美しい織物について紹介していきたいと思います。
T'nalak(ティナラック)とは?
T'nalak (ティナラック)とは、フィリピン南部ミンダナオ島に暮らす T'boli (ティボリ族) に伝わる伝統的な織物です。マニラ麻という植物で作られており、このマニラ麻は植物繊維としては最も強靭なものの1つと言われ、太陽光や風雨などにも非常に強い耐久性を持っています。4~6mのT'nalak (ティナラック)を作るには3~4ヶ月かかると言われており、全てオーガニックの精巧な技法で作られています。
このT'nalak (ティナラック)を作る女性の中でも「マスター」と言われる熟練した技を持っている織り手は特別に「dream weavers (夢見る織り手)」と呼ばれ、部族にとってとても価値のある人として尊敬されます。それは、T'nalak (ティナラック)のユニークでカラフルな柄は、織り手の夢からインスパイアされたものと言われているからです。
T'nalak (ティナラック)とT'boli (ティボリ族)
T'nalak (ティナラック)はT'boli (ティボリ族) にとって、とても重要な役割を担います。誕生、結婚、死など人生における重要な節目において、このT'nalak (ティナラック)は欠かせないシンボルとして、行事や儀式と人々を繋ぐ媒体となります。
まだ文字や文章を書く文化が生まれていない時代には、このT'nalak (ティナラック)が文学と芸術の両方の役割を担ったと言われており、T'boli (ティボリ族)の人々は彼らの夢、信念、神話、さらには彼らの宗教までもT'nalak (ティナラック)の中に表現しました。
T'boli (ティボリ族) がT'nalak (ティナラック)を売るときは、真鍮のリングを周りに置いてスピリットを喜ばせ、なだめると言われています。また、布を切ると病気や死がもたらされる、生産途中に生地を踏むことは病気になるリスクをあげるなど、様々なスピリチュアル的な思いがT'nalak (ティナラック)には込められています。
作り方
部族の女性は幼い頃からT'nalak (ティナラック)の技術を伝承され学び、長い時間をかけて習得し、制作には様々なスキルが必要とされます。簡単にですが、T'nalak (ティナラック)の作り方をご紹介します。
1.マニラ麻という植物の繊維を木からはぎ取ります
2.洗浄した後乾燥させ糸状に分散させます
3.糸状に分散させたものを崩れないよう慎重に集めて丸め、玉の形にします
4.職人が製造した天然植物染料を使用し、手紡ぎされたマニラ麻繊維を染色します
5.T'nalakは通常、赤、茶色、黒の色調に染色され、完成するまで数ヶ月かけて女性が丁寧に織っていきます
6. 最後は男性が、曲がった竹の棒に取り付けられたタカラガイの殻を利用して、織物をまっすぐにし光沢のあるものに仕上げます
このように植物の繊維をとるところから、時間をかけて一家総出で一つの生地を完成させるため、フィリピン人が大切にしている助け合いの精神「バヤニハン」の元、1枚の布に多くの人の思いが込められて作られています。
T'nalak (ティナラック)の今
では、長い間伝承されてきたT'nalak (ティナラック)ですが、現在はどういった形で人々の生活にとりいれられているでしょうか。
T'nalak Festival
毎年7月には南コタバタ州の首都であるコロナダル市でT'nalak Festivalとよばれるお祭りが開催され、1週間かけて伝統文化を祝います。
T'nalak (ティナラック)作りには忍耐力と正確性、努力が必要とされるため、そういった精神的な文化を讃え、祝う意味合いも込められています。
現代風にアレンジされた商品
6mほどのT'nalak (ティナラック)はおよそ3000~6000ペソ(6,600円~13,000円)と言われています。最近では、T'nalak (ティナラック)の生地を使ったピアスなどのアクセサリー、小物入れやキーホルダー、バッグも販売されていおり、より身近に民芸品を身につけられるようになっています。
下記にサイトのリンクを載せたので興味ある方は是非!
※英語のサイトです。
https://tnalakhub.store/Tnalak-Fabric-c55536001
まとめ
いかがでしたでしょうか?フィリピンで長年伝わる伝統工芸品について知ることでよりフィリピンの文化への理解が深まったのではないでしょうか。日本人がお祝いごとや人生の節目に用途にあった着物を着るように、T'boli (ティボリ族) にとってT'nalak (ティナラック)は生活の一部にあり、欠かせない存在です。今でも部族の中で技術が伝承され続け、毎年文化を祝うお祭りがあったり、新しい商品作りでより身近にたくさんの人が手にする機会が増えたりなど、これからも注目すべき民芸品の一つです。
作り手の想いがたくさん詰まったT'nalak (ティナラック)、日本で見つけるのはなかなか難しいですがフィリピンに行った際は一度手に取ってみてください!
【参考】
・T'nalak Dream Weavers
・How Much for a T'nalak? | The Treasured Fabric of the T'bolis from South Cotabato
・Woven Dreams of T’nalak Ikat
・Wikipedia