アジア太平洋地域では、テック企業が地方に事業を拡げたり、拠点を構えるという例は多くありません。
特にフィリピンでは、地方における産業の主体が農業や鉱業、漁業、繊維製造などの伝統的な領域になっている為、その傾向は顕著に現れています。
フィリピンのメトロマニラ(マニラ首都圏)といえば、世界の成長しているスタートアップエコシステムランキングの31~40位にランクインしましたが、地方の状況は大きく異なるようです。
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メトロマニラ、世界のスタートアップエコシステムのトップリストにランクイン
2020年6月25日付けのStartup Genomeの「GenomeのGlobal Startup Ecosystem Report (GSER) 2020」によると、メトロマニラ(マニラ首都圏)が ...
フィリピン人の多くがいまだに保守的な考え方を持ちテクノロジーを信頼しきれていないため、浸透していない地方の地域が多く見受けられます。
現在フィリピンでは、地方にサービスを提供し未開拓の地域に製品やサービスを提供するテック企業の重要性が高まってきています。
フィリピンの地方に進出している企業の挑戦
フィリピンでマニラ首都圏以外の地域に進出している数少ないテック企業の一つが、総合コンサルティング企業のアクセンチュアです。
マニラ、マカティ、ケソンの各都市にオフィスを構えるほか、アクセンチュアはラオアグとバタックの間のイロコス・ノルテに3階建てのビルを構えています。
通信インフラと国際空港へのアクセスの良さ、教育センターがあること、経済特区、幅広い人材の宝庫であることから、アクセンチュアはイロコス・ノルテにオフィスを設立しました。アクセンチュアはセブのビジネス地区にも進出しています。
また、地方への進出を行っている代表的なテックスタートアップに、簡単な仕事を依頼できるオンデマンドサービスを提供しているMyKuyaが挙げられます。
MyKuyaのアプリでは、ユーザーはKuyaやAte(お兄さん、お姉さんという意味)と呼ばれるパーソナルアシスタントを予約して、食料品の購入、荷物の受け取り、請求書の支払いなどの用事を手伝ってもらうことができます。
社会的に意義があり人の役に立つサービスを提供し、「2022年までにフィリピン人に100万人の雇用を創出する」というビジョンをMyKuyaは掲げています。
マニラ首都圏と南北ルソンの各都市でフランチャイズプログラムを開始しており、その地域にはパンガシナン州のダグパン市、ザンバレス州のスービック市とオロンガポ市、カビテ州のカビテ市、ダスマリニャス市、ジェネラル・トリアス市、ケソン州のルセナ市が挙げられます。
また、人材派遣会社、中小企業、非営利団体、その他の団体に技術プラットフォームを提供しており、業務やビジネスの成長、スタッフの効率性の最大化を目指しています。
クライアントに対する業務改善だけでなく、そのサービスを利用するユーザーのことも考え抜いてサービスを設計しているところが、MyKuyaの価値をさらに高めており、コロナによる経済的影響で多くの職を失ったフィリピン人にとって、MyKuyaが提供しているサービス/技術支援は非常に重要なものとなっています。
地方を含むフィリピン全体のテクノロジー化を進める時が来た
地方の多くの組織、企業がテクノロジーを活用することで、より多くのフィリピン人がデジタルの世界に興味を持ち、日常生活に取り入れることができるようになるかもしれません。
テクノロジーが世界中の多くの人々の生活を向上させてきたことは自明であり、フィリピンの地方でも伝統的なシステムからデジタルシステムに移行するのは時間の問題です。
フィリピン国内の多くの地域でテクノロジーが浸透していない理由一つに、科学技術の専門家が不足していることが挙げられます。科学技術省の報告書によると、多くの科学技術専門家がマニラ首都圏に集中していることが分かっています。
専門家不足は、フィリピンの経済的・教育的にも根深く関連しています。予算不足、教育の質の低さ、若者の中途退学率の高さなど、フィリピンの教育制度には未だに多くの問題があります。
また、フィリピン人の間に社会的な格差が依然として存在しています。地方の公立学校は無料ですが、フィリピンの家庭の中には様々な理由で子供を学校に通わすことができない人もいます。
とはいえ、国の発展が不可能なわけではありません。
MyKuya やアクセンチュアがやっているように、テック企業が地方に進出してサービスを提供するようになれば、政府の技術革新に拍車がかかり、フィリピンの学生、若者にもSTEM教育を受ける機械が増えることになります。
※STEM教育:Science(化学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの頭文字を取った言葉。自分で学び、自分で理解していく子ども」を育てる教育として世界中から注目を集めている。
教育の観点に加えて、テック企業は地方に進出することでさらなる利益生むができます。
ITサービスマネジメント会社「TaskUs」のCEOであるBryce Maddock氏はこれを証明しています。
Maddock氏は、大都市以外の地域に進出することで、企業は一般的に離職率が低くなるだけでなく、地方では交通量が少ないため、従業員の通勤時間を節約することができることを言及しています。また、ほとんどの企業が都市部での業務に集中しているため、地方では競合も少ないと語ります。
また、地方に拠点を置くことは、出稼ぎで国外に行ってしまうフィリピン人を減らすことにもなります。人々は自分が生まれ育った地方で仕事を見つけることができるので、海外に行く必要はありません。
オーストラリアを拠点とする技術・アウトソーシング会社DBA Advisoryのフィリピン法人であるDBA Global Shared Servicesは、地方の人材を活かして事業を拡大しています。同社は、スービック、クラーク、バターン、タルラックにあるオフィスに200人以上の従業員を雇用しています。
DBAのCEOであるDarlow Parazo氏は、ルソン島中部や他の地域に進出した理由に関して、それらの地域にいるフィリピン人は、会計、法律、ITなどのスキルが高く、DBAの重要な資産であると述べました。
地元の優秀な人材を起用することで、同社はサービスを拡大に成功し、様々な分野の職種・業種の専門家と一緒にプロジェクトを進めています。
テック企業が地方に進出するのに、今ほど最適な時期はありません。フィリピンは文化、歴史、天然資源に恵まれていますが、フィリピンが抱える多くの問題を解決するために、国全体として、世界各国の成長やテクノロジーの進化に追いついていかなければなりません。
【参考】
e27.co
以前紹介したライブストリーミングのKumuも、住んでいる地域に関わらず、デジタル上でフィリピン人に多くの機会を提供しているサービスの一つです。地方に拠点を置くことにより雇用を生み出すというだけでなく、アプリ上で多くの地域の人がチャンスを掴める時代になってきていると言えます。 フィリピンでは、ソーシャルメディア空間を中心に構築されたテック系のあるスタートアップが注目されています。 ”Kumu”は、Roland Ros、Rexy Dorado、Andrew Pineda、Cl ...
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